本書はSTM32L4 IoT-Engine向けのμT-Kernel3.0の実装仕様を記す。 対象は、トロンフォーラムから公開されているμT-Kernel 3.0(V3.00.07)のうち、STM32L4 IoT-Engine向けの実装部分である。
ハードウェアに依存しない共通の実装仕様は「μT-Kernel3.0共通実装仕様書」を参照、ARMv7mコアに共通の仕様は「μT-Kernel3.0 ARMv7-M向け実装仕様書」を参照のこと。
以降、単にOSと称する場合はμT-Kenrel3.0を示し、本実装と称する場合、前述のソースコードの実装を示す。
実装対象のハードウェアは以下の通りである。
分類 | 名称 | 備考 |
---|---|---|
実機 | STM32L4 IoT-Engine | UCテクノロジー製 |
搭載マイコン | STM32L486VG | STマイクロエレクトロニクス製 |
TX03 M367 IoT-Engineのターゲット名および関連する識別名は以下とする。
分類 | 名称 | 対象 |
---|---|---|
ターゲット名 | _IOTE_STM32L4_ | |
対象システム | IOTE_STM32L4 | STM32L4 IoT-Engine |
対象CPU | CPU_STM32L486 | STM32L486 |
対象CPUアーキテクチャ | CPU_CORE_ARMV7M | ARMv7-M |
対象CPUコア | CPU_CORE_ACM4F | ARM Cortex-M4Fコア |
識別名は以下のファイルで定義される。
include/sys/sysdepend/iote_stm32l4/machine.h
以下に関連するドキュメントを記す。
分類 | 名称 | 発行 |
---|---|---|
OS | μT-Kernel 3.0仕様書(Ver.3.00.01) TEF020-S004-03.00.01 |
TRONフォーラム |
OS | μT-Kernel3.0共通実装仕様書(Ver.2.00.00) TEF033-W002-2304xx |
TRONフォーラム |
T-Monitor | T-Monitor仕様書 TEF020-S002-01.00.01 |
トロンフォーラム |
デバイスドライバ | μT-Kernel 3.0 デバイスドライバ説明書(Ver.1.00.05) TEF033-W007-221007 |
トロンフォーラム |
実機 | UCT STM32L4 IoT-Engine取扱説明書 | UCテクノロジー |
搭載マイコン | STM32L486xxデータシート | STマイクロエレクトロニクス |
機種依存定義sysdependディレクトリ下の本実装のディレクトリ構成を以下に示す。名称に(*)の点いたディレクトリが本実装の対象である。
─ sysdepend ハードウェア依存部
├ iote_stm32l4 STM32L4 IoT-Engine依存部 (*)
├ :
├ <ターゲットn> ターゲットn 依存部
└ cpu CPU依存部
├ stm32l4 STM32L4マイコン依存部 (*)
├ :
└ <CPUn> CPUn依存部
└ core コア依存部
├ armv7m ARMv7-Mコア依存部
├ :
└ <core n> コアn依存部
「ARMv7-Mコア依存部」は、ARMv7-Mコアに共通するコードであり、他の共通のコアを有するマイコンでも使用される。 「STM32L4マイコン依存部」は、前述のコア依存部以外の本マイコンに固有のコードである。 「STM32L4 IoT-Engine依存部」は、前述のコア依存部およびマイコン依存部以外のSTM32L4 IoT-Enginのハードウェアに固有のコードである。
実装対象のマイコンの基本的な仕様を以下に記す。
項目 | 内容 |
---|---|
CPUコア | ARM Cortex-M4F |
ROM | 1MB(内蔵フラッシュROM) |
RAM | 128KB(内蔵RAM、SRAM1 96KB SRAM2 32KB) |
※本実装ではOSはSRAM1のみを使用する。
ARMv7-M実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M実装仕様書を参照のこと。
省電力機能はサポートしていない。プロファイルTK_SUPPORT_LOWPOWERはFALSEである。よって、マイコンの低消費電力モードに対応する機能は持たない。
省電力機能のAPI(low_pow、off_pow)は、kernel/sysdepend/iote_stm32l4/power_save.cに空関数として記述されている。本関数に適切な省電力処理を記述し、プロファイルTK_SUPPORT_LOWPOWERをTRUEに指定すれば、OSの省電力機能(tk_set_pow)は使用可能となる。
本マイコンはIEEE754規格に準拠したFPU(浮動小数点ユニット)を内蔵する。 詳細はARMv7-M実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M実装仕様書を参照のこと。
マイコンのアドレス・マップは、基本的にARM Cortex-M4Fのデフォルト・アドレス・マップに従う。 以下にマイコンのアドレス・マップを記す。表の備考欄のCode、SRAM、Peripheralの各領域は、Cortex-M4Fのアドレス・マップの対応する領域を示す(詳細はマイコンの仕様書を参照のこと)。
アドレス (上段:開始 下段:終了) |
種別 | サイズ (KByte) |
備考 |
---|---|---|---|
0x0800 0000 0x080F FFFF |
内蔵ROM | 1024 | Code領域 内蔵フラッシュROM |
0x1000 0000 0x1000 7FFF |
SRAM2 | 32 | CodeM領域 内蔵SRAM ※1 |
0x2000 0000 0x2001 7FFF |
SRAM1 | 96 | SRAM領域 内蔵SRAM |
0x4000 000 0x5FFF FFFF |
Peripheral | Peripheral領域 | |
0xE000 0000 0xFFFF FFFF |
CPU内レジスタ領域 |
※1 SRAM2領域は本実装ではOSは管理、使用しない。ユーザプログラムから使用可能である。
本実装では、ビットバンドによるメモリアクセスは行っていない。ユーザのプログラムからは可能である。
本実装では、マイコンの内蔵ROMおよびSRAM1を使用する。 OSを含む全てのプログラムのコードは内蔵ROMに配置され、実行される。 例外ベクタテーブルは、リセット時は内蔵ROM上にあるが、OSの初期化処理にてSRAM1上に転送される。ただし、コンフィグレーションUSE_STATIC_IVTを有効にすることにより、SRAM1上への再配置を禁止することができる(初期値は無効)。再配置を禁止した場合、APIによる割込みハンドラの登録が不可となる。
以下に内蔵ROMおよびSRAM1のメモリマップを示す。表中でアドレスに「-」が記載された箇所はデータのサイズによりC言語の処理系にてアドレスが決定され、OS内ではアドレスの指定は行っていない。
(1) 内蔵ROMのメモリマップ
アドレス (上段:開始 下段:終了) |
種別 | 内容 |
---|---|---|
0x0800 0000 - |
例外ベクタテーブル | 例外や割込みのベクタテーブル リセット時のみ有効 |
- - |
プログラムコード | プログラムコードが配置される領域 |
- - |
定数データ | C言語の定数データなどが配置される領域 |
(2) メインRAMのメモリマップ
アドレス (上段:開始 下段:終了) |
種別 | 内容 |
---|---|---|
0x2000 0000 - |
例外ベクタテーブル | 例外や割込みのベクタテーブル OSの初期化後に有効 |
- - |
プログラムデータ | C言語の変数等が配置される領域 |
- - |
OS管理領域 | OS内部の動的メモリ管理の領域 |
- 0x2001 7FFF |
例外スタック領域 | 初期化スタックとして、初期化処理時のみに使用 |
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
本マイコンのハードウェアに関わる割込み関連の定義を以下に記す。項目はARMv7-Mにおいて共通である。ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
名称 | 値 | 意味 |
---|---|---|
N_INTVEC | 82 | 外部割込み数 |
N_SYSVEC | 16 | 例外数 |
INTPRI_BITWIDTH | 4 | 割込み優先度の幅(ビット数) |
INTPRI_MAX_EXTINT_PRI | 1 | 外部割込みの最高優先度 |
INTPRI_SVC | 0 | SVC例外の優先度 |
INTPRI_SYSTICK | 1 | システムタイマ例外の優先度 |
INTPRI_PENDSV | 15 | PendSV例外の優先度 |
以上の定義は以下のファイルで記述される。
/include/sys/sysdepend/cpu/stm32l4/sysdef.h
本マイコンでは各種例外に対応する例外ハンドラのアドレスを設定したベクタテーブルを有する。 本実装では、リセット時のベクタテーブルは、以下のファイルにvector_tblとして定義される。
kernel/sysdepend/cpu/stm32l4/vector_tbl.c
OSの初期化処理において、上記のROM上のベクタテーブルはRAM上にコピーされ、以降そちらが使用される。このRAM上のベクターテーブルはARMv7-Mにおいて共通である。ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。 ただし、コンフィグレーションUSE_STATIC_IVTが1に設定されている場合は、ROM上のベクターテーブルが使用され続ける。USE_STATIC_IVTの初期値は0である。
ARMv7-Mに共通する事項はARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。 本マイコンは、割込み優先度を4bit(0~15)の16段階に設定できる(優先度の数字の小さい方が優先度は高い)。 外部割込みは優先度0~15が割り当て可能である。ただし、優先度0はOSからマスク不可のため、使用は許されない。また、優先度1と15はOS内の割込み処理で使用しているため、同様に使用は許されない。よって、実際に割当て可能な外部割込みの優先度は、2~14の13段階である。
次の例外は、優先度0より高い優先度に固定されている。
OSの内部で使用する割込みには、以下のようにマイコンの割込みまたは例外が割り当てられる。詳細はARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
種類 | 割込み番号 | 割り当てられる割込み・例外 | 優先度 |
---|---|---|---|
システムタイマ割込み | 15 | SysTick | 1 |
ディスパッチ要求 | 14 | PendSV | 15 |
強制ディスパッチ要求 | 14 | PendSV | 15 |
各割込みの優先度は以下のファイルで定義される。
/include/sys/sysdepend/cpu/stm32l4/sysdef.h ``` #define INTPRI_SYSTICK 1 // システムタイマ割込み #define INTPRI_PENDSV 15 // PendSV ```
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
最高外部割込み優先度は以下のファイルで定義される。詳細はARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
/include/sys/sysdepend/cpu/stm32l4/sysdef.h ``` #define INTPRI_MAX_EXTINT_PRI 1 // 最高外部割込み優先度 ```
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
μT-Kernel/SMの割込み管理機能は、CPUの割込み管理機能および割込みコントローラ(NVIC、EXTI)の制御を行う。 本機能の各APIの実装について以下に記す。
CPU割込み制御 ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
割込みコントローラの制御 STM32L4マイコンには、割込みコントローラとしてNVICとEXTI(拡張割込み/イベントコントローラ)が内蔵されている。NVICはARM Cortex-Mに標準の割込みコントローラである。EXTIはSTM32独自の割込みコントローラであり、NVICにカスケード接続される。 NVIC、EXTI、CPUの関係の概略を以下の図に示す(詳細はマイコンのマニュアルを参照のこと)。
EXTIは入力として40本の割込み/イベントライン(ライン0~39)があり、各ラインについて割込みのマスク、トリガ条件が設定可能である(トリガ条件設定の可否はラインによる)。 EXTIからの出力はNVICに対応する割込みとして入力される。NVICにはEXTI経由以外の割込みも入力されている。NVICは各入力について割込みのマスク、優先度が設定可能である。
EXTIを経由する割込みを有効にするには、EXTIおよびNVICの両方で割込みのマスクを解除しなくてはならない。ただし、EXTIのライン17、23~34、39はリセット時にマスクが解除されている。またこれらのラインはトリガ条件の設定ができないので、基本的にはEXTIを操作する必要はない。
μT-Kernel/SMの割込み管理機能は、NVICとEXTIの両割込みコントローラの制御に対応する。そこで、EXTIを制御するためにEXTIの各ラインに割込み番号の200以降を割り当てる。たとえば、EXTIのライン0が割込み番号200、ライン1が割込み番号201となる。 割込み番号200以降はμT-Kernel/SMの割込み管理機能でのみ使用可能である。この番号に割込みハンドラを定義することはできない(割込みハンドラを定義したい場合は、最終的に割り付けられたIRQ割込みにハンドラを定義する)。
NVICについてはARMv7-Mの実装依存部で処理される。ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。 EXTIの制御は、本マイコンの実装依存部で処理される。 各APIの実装を以降に記す。
① 割込みコントローラの割込み許可(EnableInt) IRQ割込み(割込み番号0~81)の場合、NVICの割込みイネーブルセットレジスタ(ISER)を設定し、指定された割込みを許可する。同時に割込み優先度レジスタ(IPR)に指定された割込み優先度を設定する。 EXTIソース(割込み番号200~239)の場合、EXTIの割込みマスクレジスタ(EXTI_IMR)を設定し、指定された割込みを許可する。EXTIは割込み優先度の設定はできないので、指定した優先度は無視される。
② 割込みコントローラの割込み禁止(DisableInt) IRQ割込み(割込み番号0~81)の場合、NVICの割込みイネーブルクリアレジスタ(ICER)を設定し、指定された割込みを禁止する。 EXTIソース(割込み番号200~239)の場合、EXTIの割込みマスクレジスタ(EXTI_IMR)を設定し、指定された割込みを禁止する。
③ 割込み発生のクリア(ClearInt) IRQ割込み(割込み番号0~81)の場合、NVICの割込み保留クリアレジスタ(ICPR)を設定し、指定された割込みが保留されていればクリアする。 EXTIソース(割込み番号200~239)の場合、EXTIのペンディングレジスタ(EXTI_PR)を設定し、指定された割込みが保留されていればクリアする。
④ 割込みコントローラのEOI発行(EndOfInt) 本マイコンではEOIの発行は不要である。よって、EOI発行(EndOfInt)は何も実行しないマクロとして定義される。
⑤ 割込み発生の検査(CheckInt) IRQ割込み(割込み番号0~81)の場合、割込みコントローラ(NVIC)の割込み保留クリアレジスタ(ICPR)を参照し、割込みの発生を調べる。 EXTIソース(割込み番号200~239)の場合、EXTIのペンディングレジスタ(EXTI_PR) を参照し、割込みの発生を調べる。
⑥ 割込みモード設定(SetIntMode) 割込みモードは、立ち上りエッジ(IM_HI)、立ち下りエッジ(IM_LOW)、または立ち上り立下り両エッジ(IM_BOTH)が指定可能である。 指定された割込みモードに応じて、EXTIの立ち上がりトリガ選択レジスタ(EXTI_RTSR)と立ち下りトリガ選択レジスタ(EXTI_FTSR)を設定する。 指定可能な割込みは、EXTIソース(割込み番号200~239)のみである。IRQ割込み(割込み番号0~81)を指定した場合は何も実行しない。 指定可能な割込みモードは以下のように定義される。ただし、割込みの種別により指定可能なモードが定められているので、マイコンのマニュアルを参照のこと。
#define IM_EDGE 0x0000 /* Edge trigger */
#define IM_HI 0x0002 /* Interrupt at rising edge */
#define IM_LOW 0x0001 /* Interrupt at falling edge */
#define IM_BOTH 0x0003 /* Interrupt at both edge */
なお、IM_EDGEは互換性のために定義している。たとえば、立ち上りエッジを指定する場合に、IM_EDGE | IM_HI のように記述することができる。 |
⑦ 割込みコントローラの割込みマスクレベル設定(SetCtrlIntLevel) 割込みコントローラに本機能はないため、未実装である。
⑧ 割込みコントローラの割込みマスクレベル取得(GetCtrlIntLevel) 割込みコントローラに本機能はないため、未実装である。
上記のAPIは以下のファイルに記述される。
lib/libtk/sysdepend/cpu/stm32l4/int_stm32l4.c
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
リセットハンドラはARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。 リセットハンドラから呼ばれるknl_startup_hw関数により対象システムに固有の処理が実行される。 knl_startup_hw関数は以下のファイルに定義される。
kernel/sysdepend/iote_stm32l4/hw_setting.c
knl_startup_hw関数では以下の処理が実行される。ユーザは必要に応じてknl_startup_hw関数の内容を変更してよい。
(1) CPUクロックの設定 CPUクロックの設定は以下のファイルのstartup_clock関数で行っている。
kernel/sysdepend/iote_stm32l4/cpu_clock.c
本実装では以下の設定となる。
項目 | 値 | 備考 |
---|---|---|
System clock | 80MHz | クロックソース HSE |
Peripheral clock (AHB) | 80MHz | PLL設定 M = 2, N = 40, P = 7, Q = 2, R =2 |
Peripheral clock (APB1) | 80MHz | PLLSAI1設定 N = 32, P = 7, Q = 2, R =2 |
Peripheral clock (APB2) | 80MHz | PLLSAI2設定 N = 16, P = 7, Q = 2, R =2 |
クロックおよびPLLの分周設定は以下のファイルで定義されている。
include/sys/sysdepend/iote_stm32l4/sysdef.h
#define RCC_CFGR_INIT (0x00000000)
#define RCC_PLLCFGR_INIT (0x00002810)
#define RCC_PLLSAI1CFGR_INIT (0x00002000)
#define RCC_PLLSAI2CFGR_INIT (0x00001000)
上記の定義は、RCC(リセットおよびクロック制御)のクロック設定レジスタ(RCC_CFGR)、PLL設定レジスタ(RCC_PLLCFGR, PLLSAI1CFGR, PLLSAI2CFGR)の各分周の設定に使用される。 また、クロックの値はプログラム中で使用可能なように同ファイルで定義されている。
#define SYSCLK (80) /* System clock */
#define HCLK (SYSCLK) /* Peripheral clock (AHB) */
#define PCLK1 (HCLK) /* Peripheral clock (APB1) */
#define PCLK2 (HCLK) /* Peripheral clock (APB2) */
#define TMCLK (HCLK) /* System timer clock input (MHz) */
なお、クロックおよびPLLの初期設定を変更した場合は、OSのクロック制御やデバイスドライバの制御にも影響がある場合があるため、合わせてプログラムの変更を行わなくてはならない。
(2) 周辺モジュールのクロック供給 使用する周辺モジュールにクロックを供給する。 設定はmodclk_tblテーブルの内容に従い実行する。 modclk_tblテーブルの要素は以下の構造体であり、レジスタのアドレスと設定値を示す。テーブルの内容を変更することにより設定を変えることができる。
typedef struct {
UW addr;
UW data;
} T_SETUP_REG;
初期値では以下の周辺モジュールにクロックが供給されている。
● コンフィギュレーションUSE_SDEV_DRVが無効(0)の場合
周辺モジュール名 | 用途 |
---|---|
GPIO-D | 汎用ポート |
USART2 | デバッグ用シリアル入出力(T-Monitor) |
TIM2 TIM5 | 物理タイマ |
SYSCFG | システム設定 |
● コンフィギュレーションUSE_SDEV_DRVが有効(1)の場合
周辺モジュール名 | 用途 |
---|---|
GPIO-A~D | 汎用ポート |
USART2 | デバッグ用シリアル入出力(T-Monitor) |
TIM2 TIM5 | 物理タイマ |
SYSCFG | システム設定 |
(3) I/O端子の設定 各I/O端子の機能設定を行う。 設定はpinfnc_tblテーブルの内容に従い実行する。 pinfnc_tblテーブルの要素は前述のT_SETUP_REG構造体である。テーブルの内容を変更することにより、I/O端子の設定を変えることができる。
初期値では以下の端子の機能が設定されている。
● コンフィギュレーションUSE_SDEV_DRVが無効(0)の場合
I/Oポート名 | 機能名 | 用途 |
---|---|---|
PD5 | USART2_TX | デバッグ用シリアル入出力(T-Monitor) |
PD6 | USART2_RX | 同上 |
● コンフィギュレーションUSE_SDEV_DRVが有効(1)の場合
I/Oポート名 | 機能名 | 用途 |
---|---|---|
PA0~PA2, PA4 | A/DC in | アナログ入力 |
PB10 | I2C2_SCL | 同上 |
PB11 | I2C2_SDA | 同上 |
PC3, PC4 | A/DC in | アナログ入力 |
PD5 | USART2_TX | デバッグ用シリアル入出力(T-Monitor) |
PD6 | USART2_RX | 同上 |
PB8 | I2C1_SCL | デバイスドライバ(I2C) |
PB9 | I2C1_SDA | 同上 |
PD9, PD11, PD15 | 出力ポート |
OS初期化処理は共通部のmain関数で実行される。 main関数から以下の対象システムに依存する処理が実行される。
(1) デバイスの初期化 knl_init_device main関数より呼び出され、デバイスドライバの登録に先立ち、必要なハードウェアの初期化を行う。 デバイスの初期化は以下のファイルにknl_init_device関数として実装される。
kernel/sysdepend/iote_stm32l4/devinit.c
なお、本実装ではknl_init_device関数内の処理は記述されてないので、ユーザは必要に応じてknl_init_device関数に処理を記述すること。
初期タスクの処理は共通部のinit_task_main関数で実行される。 init_task_main関数から以下の対象システムに依存する処理が実行される。
(1) デバイスの実行(knl_start_device) デバイスドライバの登録、実行を行う。本処理は以下のファイルにknl_start_device関数として定義される。
kernel/sysdepend/iote_stm32l4/devinit.c
コンフィギュレーションUSE_SDEV_DRVが有効(1)の場合、以下の基本的なデバイスドライバが登録される。
デバイス名 | 機能 |
---|---|
serb | シリアル通信(UASRT2) |
iica | I2C通信(I2C0) |
adca | A/Dコンバータ(A/DC unit0) |
コンフィギュレーションUSE_SDEV_DRVが無効(0)の場合、デバイスドライバの登録は行われない(初期値は無効(0))。
ユーザが使用するデバイスドライバを変更する場合は、必要に応じて上記の関数の処理を変更する必要がある。
終了処理と再起動処理は共通部のshutdown_system関数で実行される。shutdown_system関数からハードウェアに依存する処理が呼び出される。 対象ハードウェアに依存する処理のうち、本マイコンに依存する処理を記す。ARMv7-Mコアに共通の処理はARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
(1) デバイスの終了処理 knl_finish_device knl_start_deviceと対となるデバイスの終了処理を実行する。 knl_finish_device関数は以下のファイルに定義される。
kernel/sysdepend/iote_stm324l/devinit.c
なお、本実装ではknl_finish_device関数内の処理は記述されてないので、ユーザは必要に応じてknl_finish_device関数に処理を記述すること。
(2) ハードウェア停止処理(knl_shutdown_hw) ハードウェアをすべて停止し、マイコンを終了状態とする。本関数の処理でシステムは終了する。 knl_shutdown_hw関数は以下のファイルに定義される。
kernel/sysdepend/iote_stm32l4/hw_setting.c
なお、本実装では割込みを無効とし無限ループを行っている。ユーザは必要に応じてknl_shutdown_hw関数の内容を変更してよい。
(2) ハードウェア再起動(knl_restart_hw) ハードウェアの再起動処理を行う。knl_restart_hw関数は以下のファイルに定義される。
kernel/sysdepend/iote_stm32l4/hw_setting.c
なお、本実装では再起動には対応していないので、処理のひな型のみを記述している。knl_restart_hw関数はエラーを返して終了し、システムは終了するようになっている。ユーザは必要に応じて、knl_restart_hw関数に再起動処理を記述すること。
本マイコンに依存するタスクの仕様を以下に記す。ARMv7-M向け実装仕様書も参照のこと。
タスク属性のハードウェア依存仕様を以下に示す。
属性 | 可否 | 説明 |
---|---|---|
TA_COP0 | 〇 | FPU(TA_FPUと同じ) |
TA_COP1 | × | 対応無し |
TA_COP2 | × | 対応無し |
TA_COP3 | × | 対応無し |
TA_FPU | 〇 | FPU(TA_COP0と同じ) |
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
ARMv7-M向け実装仕様書を参照のこと。
タイムイベントハンドラの実行中の割込みマスクレベルは、タイムイベントハンドラ割込みレベルTIMER_INTLEVELに設定される。TIMER_INTLEVELは、以下のファイルで定義される。
include/sys/sysdepend/cpu/stm32l4/sysdef.h
本実装では初期値は以下のように0(すべての割込みを許可)が設定されている。
#define TIMER_INTLEVEL 0 //すべての割込みを許可
マイコン内蔵の汎用タイマ(TIM2~TIM5)を使用して4個の物理タイマが実装される。TIM2およびTIM5は32ビットタイマ、TIM3およびTIM4は16ビットタイマである。 汎用タイマに以下のように物理タイマ番号が1から割り当てられる。
物理タイマ番号 | 対応するタイマ | ビット幅 |
---|---|---|
1 | TIM2 | 32 |
2 | TIM3 | 16 |
3 | TIM4 | 16 |
4 | TIM5 | 32 |
汎用タイマは物理タイマ以外の用途にも使用可能である。その場合は物理タイマAPIを呼び出さなければよい(API StartPhysicalTimerにて汎用タイマは物理タイマに初期化される)。
物理タイマのクロック設定は、以下のファイルで定義される。
include/sys/sysdepend/cpu/stm32l4/sysdef.h
#define TIM2PSC_PSC_INIT 0
#define TIM3PSC_PSC_INIT 0
#define TIM4PSC_PSC_INIT 0
#define TIM5PSC_PSC_INIT 0
この値は、汎用タイマのTIMx_PSCレジスタにプリスケーラ値として設定される。上記の設定を変更することにより、各物理タイマのクロックを変更できる。 本実装の初期値では、物理タイマのクロックはタイマクロックを未分周で使用する。タイマクロックの周波数はPCLK1(80MHz)と同じである。
物理タイマはその内部処理において、各タイマの割込みを使用する。
物理タイマ番号 | 対応する割込み | 割込み番号 |
---|---|---|
1 | TIM2グローバル割込み | 28 |
2 | TIM3グローバル割込み | 29 |
3 | TIM4グローバル割込み | 30 |
4 | TIM5グローバル割込み | 50 |
各割込みの優先度はに以下のファイルに定義される。割込み優先度は必要に応じて変更可能である。
include/sys/sysdepend/cpu/stm32l4/sysdef.h ``` #define INTPRI_TIM2 5 // 物理タイマ1 #define INTPRI_TIM3 5 // 物理タイマ2 #define INTPRI_TIM4 5 // 物理タイマ3 #define INTPRI_TIM5 5 // 物理タイマ4 ```
T-Monitor互換ライブラリのAPIによるコンソール入出力の仕様を以下に示す。
項目 | 内容 |
---|---|
デバイス | 内蔵UART (USART2) |
ボーレート | 115200bps |
データ形式 | data 8bit, stop 1bit, no parity |
版数 | 日付 | 内容 |
---|---|---|
2.00.00 | 2023.12.01 | ・内容および構成の全面見直し |
1.00.05 | 2022.10.14 | ・誤字修正 |
1.00.04 | 2022.10.07 | ・μT-Kernelおよび関連仕様書バージョン更新 ・5.1リセット処理 (2)ベクタテーブルの移動 誤記修正(誤) USE_NOINIT (正)USE_STATIC_IVT |
1.00.03 | 2022.06.30 | ・3.3 OSのメモリマップ 誤記修正 内蔵ROM先頭アドレス (誤)0x00000000 (正)0x08000000 ・5.2 ハードウェアの初期化および終了処理 各表の設定内容を更新 cpu_clock.cファイルのパス変更 |
1.00.02 | 2021.11.15 | ・1.4 関連ドキュメント バージョン番号等を更新 ・誤記修正 (正)RNG (誤)RING |
1.00.01 | 2021.03.31 | ・1.4 関連ドキュメント バージョン番号等を更新 ・4. 割込みおよび例外 説明の見直 設定可能な優先度の誤記修正(正)優先度2~14 SetCpuIntLevelおよびGetCpuIntLevelについて、誤記修正(マスクレベル0指定時の動作)およびINTLEVEL_EI、INTLEVEL_DIに関する説明を追加 ・8.3 FPU使用の際の注意点 新規追加 |
1.00.00 | 2020.12.09 | ・初版 |
以上